※なぜ「ジョブズ風」プレゼンは失敗するのか?(上)のつづきです
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ジョブズの「プレゼン」を真似る前に
そもそも、いわゆる「ジョブズのプレゼン」は、有名な『iPhone』や『iPad』などのプレゼンから始まったわけではありません。
「アップルのジョブズ」のスタートは、友人であり天才技術者であり電子オタクであるスティーブ・ウォズニアックとともに、『アップルコンピュータ(現Apple)』を創業し、今のパソコンのルーツとなる商品『Apple I』というを売り出した21歳の時です。
その『Apple I』は、展示会などで発表する機会がありましたが、「画期的な商品」だと自信満々だったにもかかわらず、格好も私服なオタクの若者たちの無名メーカーということもあり、端っこの方のスペースで注目度も一部だけという結果に。
その後、さらに革新的な商品で、のちの大ヒット商品となる『Apple II』を造ります。その、『Apple II』の発表の場となる展示会では、ジョブズは、これまでと打って変わって大きな攻めに出ます。
小さなメーカーなのに中央の一番いい所にお金をかけたブースを作り、大々的にデモンストレーションを行なって注目を集めることに成功したのです(ちなみにこの時はスーツでプレゼンしました)。そして、『Apple II』は世界的な大ヒットを遂げます。
ジョブズが気づいて、手に入れたもの
商品である『Apple II』に自信があったのはもちろんそうですが、『Apple I』にも自信があったジョブズが、『Apple II』の時はなぜそんなカケに出たのか? その答えは、ジョブズのこういった考えにありました。
「いい商品を、どうしたらもっと売れるのか?」
これが、ジョブズがビジネスの中で培って、身につけた、彼のスキルなのです。
そこから、アップルコンピュータは、次々と革新的な製品を創り出し、「アップル製品しか買わない」という、いわゆる「アップル信者」と呼ばれる人も増えて行きました。
その象徴が「スティーブ・ジョブズ」であって、ジョブズが離れたアップルコンピュータが低迷し、ジョブズがアップルに復帰して、今や伝説となった『Think different』キャンペーン、『iMac』『iPod』を世に送り出して、「アップルのジョブズ」のブランドイメージをより確固たるものにしていきます。
そして、今の、お手本とするべきジョブズのプレゼンの「型」ができ上がったのです。
「お手本」との正しい付き合い方
そんな歴史的背景があるからこそ、「ジョブズのプレゼン=神のプレゼン」とも言われるようになったワケですが、では、それをどうやって「正しいお手本」とするのでしょうか?
「テクニック」はいろいろありますが、大事なのはとにかく、基本に立ち返ることです。
前回紹介した大谷翔平の例を考えてみましょう。
別に、大谷選手のバッティングフォーム自体を真似することは悪いことではありません。むしろ、バッティングフォームが毎回変わるような人であるならば、誰かの真似をして「型」から入るのはむしろ正解と言えるでしょう。
しかし、ずーっとそのままでも無理があります。
大谷選手は身長193センチ、92キロで、学生の頃から意識が高く、身体の使い方を考えたトレーニングをして造られた身体ですから、それがない人がフォームだけ真似して打ち続けるのはムリがあります。だから「お手本」にはなっても、そのまま実戦で使えるかといったらやはり疑問です。
大切なのは、「どうやったらしっかりボールを打てるようになるか?」という発想で、バッティングフォームはその帰結にすぎません。だからプロの選手は、身体の変化や球種トレンドの変化に合わせ、少しずつフォームを変えていきます。これは、野球に限らず、どんなスポーツにも言えることです。
プロだから変えるのです。結果を求めて。
まねるのは「型」じゃなくて、そのマインドです。プレゼンも同じです。
ジョブズのプレゼンから何を学ぶか?
先ほど、ジョブズが、いかに『Apple II』を売り込もうと考えたかの一例を紹介しましたが、「とにかく売りたい」という強い気持ちがあってこそ、プレゼンが成功するのです。
なぜなら、
「プレゼン」の本質は「売り込み」だからです。
だから、まず大事なのは、ジョブズがやっているような、「シンプルなメッセージにする」といったようなテクニカルなことではなく、まず「何を売り込みたいのか」をしっかりと考え、それを「どうやって売り込むか」という視点で組み立てたプレゼンにするべきです。
あくまでも、
プレゼンは「手段」であって「目的」ではありません。
この視点を忘れたプレゼンは、いかに素晴らしい商品であっても、大きな成功を成し遂げることは不可能です。ジョブズは、自社の商品を「大きな成功」に導くために、徹底的に考えたプレゼンをしたのです。逆ではありません。
また、その結果、彼のプレゼンが、人々の意識やライフスタイル、そして時代を変えた商品を世に広める結果となり、いつまでも「理想」であり、「究極」であり、「神のプレゼン」と呼ばれるのです。
だから、「ジョブズのようなプレゼン」をしたいという、プレゼンが目的の、形だけものまねしたものが大失敗になるのは、当然なのです。
それでも、
「やっぱりジョブズ風で成功させたい!」という方のためのプレゼンのつくり方については、また今度解説します。