※「地球儀」は必要?いらない?(3)のつづきです。
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2つの地球儀
これまで見てきたように、地球儀には「社会科」としての顔と、「理科」としての顔の二つがあることがわかっていただけたと思います。
実は、地球儀そのものにも、おもに二つの種類があることをご存知でしょうか?
一つが、「行政図(行政型)」と呼ばれる、国ごとに色分けされているもの。
もう一つが、「地勢図(地勢型)」と呼ばれる、高度ごとに色分けされているもの、です。
主流は「行政図」タイプで、ほとんどの方の「地球儀」のイメージもこれだと思います。品ぞろえも、圧倒的に「行政図」タイプの方が多いです。
その理由は色々ありますが、地球儀が一番売れる「入学祝」の時に求められるものが、「世界はこんなに広くて、いろんな国が、いろんな大きさであるんだよ」ということの理解を助ける「世界のいろんな国をわかりやすく知るための教材」としての地球儀だからと思われます。「地球儀」なのに、地球ではなく「世界」を学ばせたいという理由です。
そのため、「行政図」タイプの地球儀は、実際の地球にはありえないカラフルな色分けをしてあり、学校で使わなくなった時のインテリアになじまない感はハンパありません。しかも、国名はコロコロ変わるので、なくなった国がドーンと書いてあるのも気恥ずかしく感じます。
その結果、「あった方がいいかもしれないけど捨てるのも…」と、「国名や都市名をおぼえても大してテストに出ない」ことに気づいた中学以降、物置にしまわれてしまうのです(とくに「世界史」は欧米史であることが多いので、ヨーロッパを見るには小さすぎる)。
最近は、その辺を考慮してか、同じ行政図タイプでも、下の写真のような、あえて色あせた感じにしたアンティーク調のものが人気です。昔の骨董品屋にありそうなものですが、最初からこんなビンテージ加工されており、英語以外に日本語で書かれている商品もありますので、教材として使うことも可能です。
マイナーな方の地球儀
もう一つの「地勢図」タイプの地球儀は、国別の色分けではなく、地形の高低を色分けしたもので、いわゆる「地図帳」の各ページに載っている地図と同じものになります。
国境や国名、都市名や山脈名などが書いてありますが、国別の色分けはされておらず、「入学祝」に買う人はあまりいません。
中には、色分けだけではなく、山岳部分に盛り上がりをつけたものもあり、どこに山脈があって、どこが平地なのか直感的に感じることができるものもあり、こういった「山岳隆起」モデルは、地勢図だけじゃなく、行政図タイプに使われているものもあります。値段は少しお高くなりますが、地球は平らじゃじゃなく、でこぼこした球体であることがわかります。また、日本も「山の国」であることがわかります。
ちなみに、海の深い部分(マリアナ海溝など)は、陰影で凹んでいるように見えます。
実は、勉強の役に立つのは「地勢図」タイプ
「行政図」タイプの地球儀は、どちらかというと「地理」の教材といえ、緯度経度と国の確認ツールの域を出ませんが、「地勢図」の方は、地形ならぬ地勢の確認ツールなので、とくに中学生以上での「地理」「歴史」「気候」の学習の助けになることが多いです。
国別の色分けがされているわけではないですが、国名と国境もありますので、「確認」するには十分です。
なにせ、表記が「地図帳」と同じですし、「地図帳」と比べて距離と方角が正確ですし、何より、「地球全体で」見ることができるのがメリットです。だから、机の上に置いておき、必要に応じて確認する使い方ができます。
気候
地勢図タイプの地球儀には、「海流」が暖流と寒流で色分けしているものがあり、特にそういったものは、「日本は寒流があるから緯度が高いヨーロッパより寒い」など、緯度と海流と気候の関係性を繋げて理解しやすいです。また、赤道直下の熱帯雨林気候や、その北側に多く存在する砂漠との関係性も、地球儀であれば理解がよりしやすくなります。
また、理科的に考え、地球の「自転」「公転」とそれによる気候の影響も、地球儀があることで理解はとても速くなります。
たとえば、部屋を暗くして、アーム式のデスクライトやケータイのライトを使って地球儀を照らせば、どの位置でどの時間、どれくらい日が当たるのかすんなり理解が出来ます。わざわざ、イラストの「読み解き方」をおぼえるよりも、「なぜ、そうなるのか」説明できるだけのものが体験として身につくので、よっぽど論理的思考力が身に付きます。
地理
中学地理は、世界の地域と気候や農業、産業といったことを学びます。農業は産地と平地で全く異なるのは皆さんご存知の通りですし、これを、「行政図」から学ぶのはいささかムリがありますよね?
地勢図タイプの地球儀なら、「緯度」や季節によってどんな農業ができるのか、「北緯○°」と文字で書いてあるだけの地図帳よりも、はるかにイメージがつきやすいです。産業も農業からの転換でなる場合もありますし、「凍土」での産業が限られること等がイメージ付きやすいです。
また、なぜロシアやカナダのような巨大な土地を持つ国家が「1番」になれなかったのかというのも、一目瞭然です。北極に近すぎて、有効に使える大地が少ないのです。
歴史・政治
ナポレオンやヒットラーがロシアに進攻したが雪の影響もあって失敗したのも、地球儀を見ていると、ロシアが、北海道よりはるかに北に位置した上にあるうえ、大きな山岳地帯があることがわかります。その中で、平面の地図で見るよりもより北向きに進軍してするので、より「難しい戦い」だったというのがわかる気もします。
また、「四大文明がなぜ発達したのか?」というのも、当時は今よりも涼しく、温暖で農業が発達しやすかったからという説が今は主流ですが、それも地球儀を回すと、四大文明が同じような赤道に比較的近い緯度にあることで、「今よりいい気候だった説」がイメージしやすくなります。
政治
ほかにも、直接テストに出るわけではありませんが、地形が政治に影響を与えるという考え方の「地政学」にも使えます。
我々が見慣れた世界地図は、日本を中心としたもので、ロシアとアメリカがほどよく左右に分かれて均衡しているように見えますが、地球儀で見るとロシアとアメリカは意外と近いのがわかります。
その最前線が、カムチャッカ半島であり、千島列島、そして北方四島です。
ロシアの北の海はすぐ北極の「凍る海」なので、ギリギリ「凍らない海」と面しているのが北方領土です。太平洋戦争時に、ハワイの真珠湾攻撃をした艦隊が出たのも、北方領土の択捉島です。それくらい、アメリカに近いのです。
そこから見ても、元々ロシアの領土だとか、資源の絡みもありますが、ロシアにとって北方領土とは、アメリカと接する最前線ですので「返したくない」「緩衝(かんしょう)地帯にしたい」場所だということがわかります。
沖縄からアメリカ軍基地が減らないのも、同じ理由です。正しいかどうかは別として、現実そうなっていることを学ぶことはとても大切です。
このように「地勢図」タイプの地球儀は、「行政図」タイプのように、国名を「暗記できる」といった直接的な効果が見込めるわけではありません。
しかし、物事の理解の助けになり、結果的に幅広く応用できるベースとなる、「地理的素養」や「歴史的素養」「科学的素養」「論理的思考力」が身に付きやすいのが、「地勢図」タイプの地球儀とも言えます。
知識だけなら百科事典を読めばわかりますが、「地勢」にまつわる様々な流れや関係性というものを、「地勢図」タイプの地球儀は教えてくれるのです。
そう、地球儀が、子どもを賢くしてくれる、というわけです。